大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)108号 判決
控訴人は「原判決を取消す、被控訴人らの請求を棄却する、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を、被控訴人らは「控訴棄却の判決」を求めた。
当事者双方の主張は、控訴人において、本件農地についての買収及び売渡計画は、昭和二十三年九月三十日及び同年十月一日自作農創設特別措置法(自創法)第五条第四号の指定、その他使用目的変更等の指定のあつたものについては、これを取消すという条件付でなされたものであるが、ただ売渡通知書に右条件を記載することを事務的に脱洩したものである。従つて本件売渡通知書交付処分は、売渡計画が条件付になされているにかかわらず、この条件を附することを失したという形式上のかしがあるから、これを取消し得べきものであるのみならず、控訴人は昭和二十四年六月二十七日、本件農地を同法施行規則第七条の二の三により、五年間売渡を保留し得る農地として指定したから、同二十五年一月十七日付右売渡通知書交付処分を取消したものであつて、何等違法でない。
被控訴人らは、右規則は前示計画樹立後である、昭和二十三年十月五日公布せられたものなることを指摘するが、右計画当時はすでにいわゆる五年制の問題は一般周知の重大事項であり、この指定を条件として附加するや否やは、近々公布せらるべき規則との関係において、利害関係人らにとつて、注視の的であつたので、前示のような取消条件を附したわけであつて、かような将来生ずることあるべきことを条件となし得ることはいうまでもないと述べ、被控訴人らにおいて、本件売渡計画の承認及び売渡通知は何れも無条件でなされたものであるから、控訴人主張のように本件売渡計画が条件付になされたものとしても、それは控訴人側の内部関係にすぎないから、被控訴人らに対してその効力を及ぼすものではない。なお、控訴人主張の規則第七条の二の三は無効の規定であるのみならず、右規則は本件売渡計画樹立当時は未だ制定されていなかつたのであるから、右規則による指定を前提とする条件を附することは無効であるといわねばならぬと述べた外、原判決記載の事実と同一であるから、これをここに引用すると述べた(立証省略)。
三、理 由
控訴人が被控訴人ら主張のとおり本件農地(原判決添付目録記載のもの)について昭和二十五年一月十七日付で、被控訴人らに対する売渡通知書交付処分を取消したことは、当事者間に争のないところである。
被控訴人らは、右取消処分は正当の理由なく、且つ既に売渡処分によつて被控訴人らの取得した右農地に対する所有権を失わしめるもので違法であると主張するに対して、控訴人は本件農地の買収及び売渡計画は、何れも自創法第五条第四号の指定等があつたときはこれを取消すという条件付になされたものであるところ、控訴人は右農地について、昭和二十四年六月二十七日同法施行規則第七条の二の三に基き五年間売渡を保留し得る農地として指定したから、右取消処分は違法でないと主張する。
よつてこの点について案ずるに、右規則第七条の二の三は、自創法の委任の範囲を越える無効の規定と解すべきものである。(昭和二十七年十月三十日大阪高等裁判所判決及び昭和二十六年六月二日大阪地方裁判所判決参照)従つてこの規則に基いてなされた控訴人の右指定もまた無効であるから、控訴人主張のように本件売渡計画が取消条件付でなされたものとしても、かかる無効な指定をもつて、右条件にあたるものとして、右計画に基く本件売渡通知書の交付処分を取消すことのできないのは明白である。
次に控訴人は本件売渡計画が取消条件付でなされているにかかわらず、売渡通知書に右条件の記載が脱洩していたから、この形式上のかしを理由として、右通知書交付処分は取消し得べきものであるというが、右のように売渡計画が条件付にされているのに、これに基く売渡通知書にその条件の記載のないというのは、ひつきよう本件農地の売渡に関して、関係行政機関の内部において、決定された意思とその表示が、錯誤によつて不一致をきたしたものというべきところ、行政行為は単にかような理由のみでは取消し得べきものではなく、これを取消すには、これを正当とするに足る理由を要するものと解すべきである。
しかして、控訴人が右通知書交付処分を取消した実質的な理由は、いわゆる五年間売渡保留の指定のあつたことによるものなることは、控訴人の弁論の全趣旨に照して明かであり、右指定が無効であることは、前示説明のとおりであるから、結局本件において右交付処分を取消すべき正当なる理由はないものといわざるを得ない。
控訴人はなお、控訴人は農地売渡処分については、形式的審査権しか有しないから、伊丹市伊丹地区農地委員会において、本件売渡計画を、兵庫県農地委員会においてその承認を取消した以上、控訴人は本件取消処分をなさざるを得ないから、右処分は何等違法でないと主張するけれども、そのしからざることは、この点に関する原判決の説示するとおりであるから、これを引用する。
そうすると控訴人の本件売渡通知書交付取消処分は違法というの外なく、被控訴人らの請求は正当である。
よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)